クリスマスの絵というと
現代ではサンタクロースが登場していたり、
クリスマスツリーが輝いていたりと
ウキウキとするようなものが多いですよね。
しかし聖書に記されているクリスマスのシーンというと、
イエスキリストが生まれ、
それを知った東方の三博士たちが
星に導かれて会いに行くというものが有名です。
今日はそんなシーンをレオナルド・ダ・ヴィンチが
生まれる200年ほど前から活躍し、
立体感をつけて描いた画家のジョット・ディ・ボンドーネ作
『東方の三博士の礼拝』(1304年頃)を見て
クリスマスを読み解きたいと思います。
なおジョットについてはこちらの動画で
詳しく解説されています。
東方の三博士って誰?
東方の三博士は旧約聖書のマタイによる福音書で
『占星術の学者たちがベツレヘムの星の星に導かれ、
ヘロデ王が統治している時代に新しく生まれた王に
あいさつに来た』と記されています。
このマタイによる福音書には、
学者たちの人数や名前は書かれていません。
しかし黄金・乳香(にゅうこう)・没薬(もつやく)
を持ってやって来たと記されていることから
現在では三博士、つまり3人ということになっています。
彼らはさまざまな名前で呼ばれていましたが、
西洋で一般的となったのが
カスパール、バルタザール、メルキオールでした。
初期のころは3人は似たような風貌をしていましたが、
一番の高齢者が乳香を持つカスパール
(黒い肌をしていることもある)、
年齢順では次が没薬を持つバルタザール、
そして一番の若者が黄金を持つメルキオールとなっています。
この東方の三博士が生まれたばかりのイエスキリストに
あいさつに来ることを『東方の三博士の礼拝』といい、
イタリアのフィレンツェで特に好まれて
絵画に書かれていました。
黄金・乳香・没薬を贈った意味はあるの?
三博士が贈ったと言われている三つの贈り物には
何か意味が込められているのでしょうか?
黄金はともかく、乳香と没薬はあまり
なじみがないものですよね。
一体これは何なのかも一緒に解説していきます。
黄金
幼子イエスへの贈り物で
キリストの王としての尊厳を意味しています。
乳香
フランキンセンスとも呼ばれる乳香は
キリストの神性と礼拝の象徴を意味しています。
乳香樹としても知られていて、
アフリカ産のボズウェリア属の樹木から
採取されるよい香りのする樹脂で
宗教儀式の際に焚かれるお香として
古くから使われています。
当時は黄金と同じくらい
高価なものだったといわれています。
没薬
ミルラとも呼ばれており、
同じく黄金、乳香と並ぶ高価なものでした。
東アフリカとアラビアで産出される
コミフォラ属の香りのあるゴム樹脂で
香料や薬、香水、軟膏を作る際に使われます。
死者に油を塗るときにも使われてる没薬が
贈り物の一つであるということが
キリストの死を予言しているということだとされています。
〇ベツレヘムの星は火の玉だった!?
ジョットの東方の三博士の礼拝の絵の中で
気になるものがもう一つ。
上方に火の玉のような物体が描かれています。
これはクリスマスに東方の三博士たちを
ベツレヘムに導いた、ベツレヘムの星なのですが
ジョットは1301年に現れたハレー彗星をモデルに
ベツレヘムの星の描いたのではないかとされています。
ハレー彗星は太陽の周りを回っており、
約75年の周期で地球に接近するので
肉眼でも見ることができる彗星です。
ハレー彗星自体は約7km×約15kmと
核はとても小さいのですが
太陽に近づくと、熱でハレー彗星がまとっているものが
蒸発し、ガスの雲である「コマ」をまといます。
コマは最大で1億kmにもおよび、
地球に接近している時にも
直径約12100kmほどの金星よりも大きく見えることがあります。
しかしハレー彗星は歴史的に古くから凶星、つまり
よくないことが起こる前兆の星だと思われていました。
ハレー彗星が現れる前後には
後漢が滅びたり、フン族と西ヨーロッパ諸民族連合との
カタラウヌムの戦いが起きたり、
フランク王国の分裂騒動が起きたり、
ノルマン人がイングランドを征服した
ノルマン・コンクェストが起こったりと歴史的にも
大きく揺れ動く時期と重なるのです。
通常ベツレヘムの星には八芒星が描かれ、
ハレー彗星は描かれません。
クリスマスツリーの星、トップスターも
本来ならば八芒星が正しいのですが
ではなぜジョットは不吉といわれている
ハレー彗星を描いたのでしょうか?
確かなことは不明だが
東方の三博士たちを導く星を
描きたかったジョットは
その星のモデルとしてハレー彗星を選んだ可能性があります。
そして本当のベツレヘムの星の正体も
紀元前12年頃に接近したハレー彗星である
という可能性があるのです。
他にも超新星爆発の説や
木星と土星が接近して
一つの大きな星に見えた という説などもあります。
イエスキリストが生まれたのは
紀元元年とされていますが、
様々な文献によるとどうやら紀元前数年のことで、
その頃にはハレー彗星の周期が重なったり、
超新星爆発などの可能性がある時期があるので、
その強い光を東方の三博士たちは
『導きの星』としたのかもしれませんね。
そして偶然にもジョットが画家として
活発に活動していた頃にもハレー彗星が観測され、
その不吉ながらも美しい輝きに
ベツレヘムの星を重ねたのではないでしょうか。
まとめ
クリスマスの絵画というと、
サンタクロースやソリを引くトナカイ、
美しく輝くクリスマスツリーよりもずっと以前
東方の三博士たちがベツレヘムの星に導かれて
誕生したばかりの幼子イエスに
あいさつに来る というシーンが有名です。
マタイによる福音書には詳しく記述されていませんが、
東方の三博士たちはそれぞれ年齢順に
カスパール、バルタザール、メルキオール とされており、
この3人はそれぞれ贈り物を持っていました。
それが黄金・乳香・没薬です。
どれも当時はとても高価で滅多に手に入る品物ではありませんでした。
それだけではなく、黄金はキリスト教の王であることを象徴し
乳香はキリストの神性と礼拝、つまり祈りの象徴、
そして没薬は死者に使用することからも
イエスキリストの死を意味していたとされています。
そして他の星々とは一線を画しているベツレヘムの星。
その正体はハレー彗星とも、超新星爆発とも
木星と土星が接近した際に放った強い光だとも言われています。
事実は現在においても明らかにはなっていませんが、
『東方の三博士の礼拝』を描いたジョットは
自らが見たハレー彗星をモデルに
ベツレヘムの星を描いたのではないかと言われています。
この絵画は今から700年以上前に描かれたものです。
それよりも以前から人々はキリスト教の宗教画を描き、
クリスマスを祝ってきたのですね。
そう思うとクリスマスは本当に歴史あるもので、
今では季節の行事にも、お祝いにも欠かせない
行事なのだなと感じますね。
東方の三博士の礼拝を描いているのは
ジョットだけではなく、
色んな画家たちが描いている題材ですので
是非他にも見つけてみてください。