あなたはクリスマス映画の不朽の名作、
『34丁目の奇跡』をご存じでしょうか?
元々は1947年に制作された
白黒の映画なのですが、
ただの古いだけの映画ではありません。
ビデオによる発売がされた後に
リメイクを4回、
その後カラーライズ化をしての
発売もされていることから
その人気ぶりが伺えます。
私もこの作品が大好きで、
特に2002年に邦訳されて
初版が発売した原作本は
大切な宝物の一つです。
こちらは映画の制作が進んでから
原作化されたという
珍しい例の本ですが
書籍はベストセラー、
映画はアカデミー賞を3部門受賞、
ゴールデングローブ賞を2部門受賞
という当時でも話題の作品です。
そんな『34丁目の奇跡』を
本と映画のどちらも
より一層楽しめるための
豆知識をお届けしたいと思います。
目次
『34丁目の奇跡』作品情報とあらすじ
書籍の情報
発売日:2002年11月1日
著者:ヴァレンタイン・デイヴィス
訳者:片岡しのぶ
発行者:山浦真一
発行所:あすなろ書房
映画の情報
1947年、アメリカ(原題:MIRACLE ON 34th STREET)
子供心を忘れてしまった
全ての人たちに贈りたい、
ハートフル・コメディドラマです。
出演:モーリン・オハラ、ジョン・ペイン、
エドマンド・グウェン、ジーン・ロックハート、
ナタリー・ウッド他
あらすじ
ニューヨークのマンハッタン34丁目にあるメイシー百貨店。
そこでサンタとして雇われた老人は
サンタクロースにそっくりで、
自分のことをサンタと信じて疑わない様子。
やがてそれは前代未聞の裁判にまで発展していき…。
『34丁目の奇跡』を取り巻く世界を深掘り
クリス・クリングルは本名なのか誰も知らない
クリス・クリングルは現在では
サンタクロースと同じ意味を持つ名前、
すなわち別名と言えます。
クリスは自分の名前を『クリス・クリングル』と
名乗っていますが、
それが本名かどうかは誰も知りません。
要するに自分の好きな名前で
普段生活をしているわけですよね。
そんなことが可能なのでしょうか。
それがアメリカでは可能だと考えられます。
というのも
アメリカ合衆国では住む州によって
法律が異なりますが、
ほとんどの州では原則として
任意の姓名に変更することができるのです。
銀行や公的機関で
名乗りたい任意の名前がある場合には
裁判所での手続きが必要ですが、
その他のほとんどの場所では
法的な手続きは必要ありません。
なので『クリス・クリングル』と
名乗ることは不可能ではないのです。
アメリカの介護事情、RC(リタイアメント・コミュニティ)
クリスはとある老人ホームで生活をしています。
そこでは専属のお医者さんがおり、
クリスには自室がある上に
パイプを吸ったり木工工作をしたりと
自由に暮らしています。
70年以上前の老人ホームにしては快適な生活を
送っているのではないでしょうか。
介護先進国と言えば
やはり日本というイメージを
持っていますよね。
そしてアメリカで
保険や介護サービスを受けられるのは
ごく一部のお金持ちの人々だけ
という話も有名です。
しかしクリスが富裕層の
老人ではないことは
物語に書かれています。
これは個人的な意見なのですが、
私たちのイメージしている『老人ホーム』は
作者の伝えたかったものとは
少し違うのではないかな?
と考えています。
作者は当時の最先端である
RC(リタイアメント・コミュニティ)という
概念を取り入れた、
新しい形の老人ホームを
思い描いていた気がしてなりません。
RCとは高齢者の住む居住区のことで、
元気なうちから入居して
介護が必要になっても同じ敷地内で
人生を豊かに過ごしていきます。
そこでは医療スタッフはもちろんのこと、
生活インフラが整えられており、
ショッピングセンターや
娯楽施設も建てられています。
RC自体は1950年代の末頃に
作られ始めたものですが、
高齢者層やリタイア層が
このような環境を求めての
移住が顕著になったのは
ちょうど34丁目の奇跡が
制作されている頃である
1940年代後半以降のことなのです。
RCに住むことができたのは
55歳以上の人と、その家族です。
作者のヴァレンタイン・デイヴィスは
その頃には40歳を超えているので、
全くの他人事として考えては
いなかったのではないでしょうか。
メイシー百貨店の感謝祭パレード
クリスが街に出てすぐに目にする
大きなイベントです。
これは実在する百貨店のメイシーズが
1924年から現在でも行っている
大きなパレードです。
この様子をみるとアメリカでは
クリスマスシーズンの到来を
感じるようです。
ここからは作品に登場する百貨店のことを
メイシー百貨店と呼び、
そのモデルとなった実在する百貨店を
メイシーズ百貨店と呼ぶことにします。
このパレードは実際に34丁目の奇跡で
撮影され、使用されたことにより
アメリカの文化になくてはならないもの
となりました。
そしてメイシーズの感謝祭パレードは
メイシーズ・サンクスギヴィング・
デイ・パレードと呼ばれ、
毎年色々なキャラクターの大きな風船が
有名なのですが、
8頭のトナカイの引くソリに乗った
サンタクロースの姿も名物です。
百貨店のサンタクロース
アメリカではクリスマスが近づくと
デパートやショッピングモール、
時にはスーパーやドラッグストアなどでも
サンタクロースが現れて
一緒に写真を撮ることができます。
特にメイシーズ百貨店では
1861年の今から150年以上も前から
サンタクロースイベントが
開催されている伝統行事なのです。
そんな百貨店が太鼓判を押すほど
クリスは『サンタクロースにそっくり』なんですね。
裁判所からの決定事項は重要?
クリスはひょんなことから
とある裁判にかけられてしまいます。
それはクリス自身に
妄想癖があるのか、
それともないのか
ということにも関わります。
アメリカの法律は
その州によって異なりますが、
裁判所の判断はとても重要です。
特にニューヨークやマサチューセッツ、
ワシントンやカリフォルニアなどでは
その州の判断が他の州の
判断材料になることもあります。
しかしながら今回の場合は
クリスはあくまで
ニューヨーク州の法律にのっとり
裁判がされ、その結果が
他の州に影響される…
ということではなさそうです。
『34丁目の奇跡』が伝えたいこと
ここからはまた
私の個人的な感想になるのですが、
34丁目の奇跡の作者である
ヴァレンタイン・デイヴィスは
以下のことを私たちに伝えたかったので
ないでしょうか。
経済成長していくアメリカで忘れかけている心を取り戻してほしい
1940年代のアメリカは
第二次世界大戦の前後で
それまで冷え切っていた経済が
好転していきました。
そしてそれに伴い、
国民の消費生活が
充実していったのです。
企業はいかにして
さらなる消費を促すかを画策し、
人々はウォーカー母娘のように
現実的、効率的を求めるあまりに
幸せを分かち合う心や
思いやりの心を忘れつつある。
それを嘆いた作者は
クリスマスを通して
もう一度それを取り戻して
欲しかったのだと私は考えます。
そして作者のそんな意図が
アメリカ国民に刺さったために
34丁目の奇跡はこんなにも
話題となり、人気を博したのでは
ないでしょうか。
まとめ
34丁目の奇跡は1947年のアメリカ映画で
当時から人気がありましたが、
現在までに4度もリメイクされている
不朽の名作です。
2002年には原作が邦訳された本も
出版され、たちまちベストセラーになりました。
そして老人が『クリス・クリングル』と
名乗って生活ができる可能性はあるのか、
クリスの住む老人ホームには
当時の最先端の思想が
反映されているのではないか、
メイシー百貨店が行っていた
感謝祭のパレードは実在したこと、
アメリカにおいて
裁判所の判断は重要だということ
など、34丁目の奇跡を
色々な観点から見てみました。
そして作者は
経済成長で消費ばかりしている
自分の国を嘆き、
現実と効率だけを求める親子の姿を
今の人々に重ねて
憂いていたのではないでしょうか。
クリスマスを通してもう一度
思いやり、分かち合い、助け合う気持ちを
取り戻して欲しいと
いう思いを感じました。
まだ作品を読んでいない方、
見ていない方は是非
目を通していただきたいと思いますし、
すでに見たことがあるよ という方も
この記事を見た後で
もう一度少しでも見てみたいなあ
と思っていただけると
嬉しく思います。