2021年に一部の地域とNetflixでも配信された
『クリスマスとよばれた男の子』をご存じですか?
とても可愛いニコラスという男の子が
旅に出たお父さんを追いかけて
エルフが住んでいると言われている街
『エルフヘルム』に向かって
フィンランドからさらに北の地へ
冒険をしにいく物語です。
ニコラス、クリスマスと呼ばれた少年は
どのようにしてファーザークリスマス
(サンタクロース)になっていったのでしょうか?
原作者はイギリス人作家のマット・ヘイグ。
大人向けのビジネス書や
児童書を執筆している作家です。
今日はこの『クリスマスとよばれた男の子』を
主に原作から濃く考察をしていきたいと思います。
目次
〇原作と映画で違う点
・ルースおばさんという存在
まず原作と映画で大きく異なる点として、
映画ではルースおばさんという女性が
とある家庭で留守を預かり、
子供たちにお話をする という形で
ストーリーが進むのに対して
原作はあくまで主人公はニコラス1人です。
ルースおばさんは映画ハリー・ポッターで
マクゴナガル先生役を務め上げた大女優マギー・スミス。
また本作品はフィンランドから北の大地が舞台ではありますが、
イギリスの映画のためかイギリス出身の俳優が多く起用されています。
お父さん役のミキール・ハースマンはオランダ出身
カルロッタおばさんを演じるクリステン・ウィグは
アメリカ出身の俳優さんですが、
二人ともイギリス英語を話すことに
問題ないのだと思われます。
・ネズミのミーカという存在
主人公ニコラスには人間の友達がいません。
生き物ではネズミのミーカが初めての友達です。
映画でニコラスは一生懸命ミーカに
人間の言葉を教えますが原作ではそのような
描写はありません。
映画の中でのミーカは人間界の理を理解し、
ニコラスと喜怒哀楽を共有する
なくてはならない友人なのですが、
原作の中でのミーカはあくまでネズミで
ニコラスもそれを充分に理解しているようでした。
・ニコラスのお母さん、リリヤという存在
ニコラスのお母さんはどちらの作品の中でも亡くなっており、
ニコラスにとっては大切だけれども
過去の人物となっています。
異なる点として、
映画でのニコラスのお母さんは
点がやがて線となってストーリーが進むような存在であるのに対して、
原作ではニコラスの目の前で
ショッキングな亡くなり方をしており、
ニコラスは一時期PTSDのような状態に陥っていました。
ニコラスはその後立ち直るのですが、
お母さんが本編に深く関りがあるのかと言われると
ないかも…と思ってしまいました。
・マザーサムシングという存在
映画ではエルフのマザーサムシングという人物は
キーパーソンの1人であり、
彼女の心の動きは主人公ニコラスにとって
自分の運命がかかる重要なものでした。
しかし原作の中ではマザーサムシングではなく、
別の人物が似たような立ち位置にいます。
これはおそらくニコラスのお母さんを
ストーリーに絡ませたためかな…?
と想像しました。
〇実在しているものや都市がある
イギリスのファンタジー児童書というと
誰もがハリーポッターシリーズを
想像するのではないでしょうか。
ハリーポッターシリーズの主人公ハリーは
魔法学校の生徒で、
人間界で生活をする時間と
魔法学校で生活をする時間がありますが、
ニコラスも旅立つ前はフィンランドの森に住んでおり、
そこから北の果て、魔法を使うエルフの住む『エルフヘルム』
へ向かうのです。
ハリーが人間界で生活している時は
イギリスでのリアルな生活が描かれているように、
ニコラスのフィンランドでの生活も
実在しているものや都市があります。
その一部を少しお伝えしたいと思います。
・クリスティーナンカウプンキ
フィンランド南西部のボスニア湾に面している都市。
その近くがニコラスの住む森となっています。
・ラッカ酒
フィンランドで人気のリキュールです。
「ラッカ」や「ヒッラ」と呼ばれ、
主に北フィンランド(中部以北を指す)に自生しているオ
レンジ色のつぶつぶとしたベリーの「クラウドベリー」が原料です。
ゴールデンベリーとも呼ばれます。
・ムスティッカ・ピーラッカ
フィンランドの夏の味であるブルーベリーパイです。
ブルーベリーの上にクランブル生地を散らして焼き上げて作ります。
焼きあがったらバニラアイスを添えて食べます。
・ラップランド
ヨーロッパ最北部の地域で、ノルウェー、スウェーデン、
フィンランドの北部、ロシアの北西隅にまたがっています。
大部分が北極圏に位置しているので、
サンタクロースの住まいやオーロラが
観測できる地としても有名です。
〇作者が伝えたいクリスマスの魔法とは
ニコラスはとても良い子です。
親切で、愛情を持って人に優しく接する事ができ、
想像力豊かでお金よりも大切なものが
何かを知っているのです。
そんなニコラスも一時的に希望を失い、
危険な状態でしたが『魔法』によって
元気を取り戻します。
ニコラスがかけられたのは、
目を閉じて、正しく願うとそれが叶う希望の魔法。
そして併せて『不可能』という言葉を否定されます。
「不可能というのはニコラスがまだ理解できていないだけで、
本当は可能なこと」だと。
希望を持つことと不可能は本当は可能なこと
私はこれが作者の一番伝えたい魔法なのかな と考えました。
理由として希望の魔法のことを作品では
『ドリムウィック』と呼ぶのですが、
この魔法無しにニコラスは冒険ができませんでした。
そして『不可能というのは自分がまだ理解できていないだけで、
本当は可能なことなんだ』という真理にたどり着かなければ
ドリムウィックは使うことができませんでした。
原作・映画両方の作品を通しても
ドリムウィックは重要な魔法であることは間違いなく、
そこにこそ作者の意図があるのではないかと思います。
〇まとめ
今日はイギリスのファンタジー児童小説の
『クリスマスとよばれた男の子』を原作を中心に
細かく考察してみました。
この作品は映画化もされており、
ネットフリックスで配信されています。
原作は小学5年生向けに書かれていますが、
死別の描写や意地悪をする人物などのことも
多少書かれていますので、
かなり繊細なお子様や
低学年のお子様が読まれる場合には
少し気にかけてあげてもいいと思います。
個人的には映画の方が表現がマイルドになっているかな?
という感想でした。
映画と原作で大きく異なる点としては
映画ではルースおばさんという女性が
物語としてニコラスの話を語っている
という点についてでした。
そして舞台はフィンランドなので
普段はあまり聞きなれないフィンランド語や
実在する地名などもたくさんあります。
ラップランドはオーロラを見ることのできる場所
として有名なのですが、
ラッカ酒やムスティッカ・ピーラッカなどは
初めて知りました。
とっても美味しそうです。
そして作者が一番伝えたいこと
それは『希望』を持つことと『不可能は本当は可能』という真理
ではないかと思います。
人間は良い人でも悪いことをすることもありますし、
その逆もあるでしょう。
良いこと、悪いことは時代によっても変化していきます。
時代によって変化するのはクリスマスも同じです。
昔、ほんの40年ほど前のオランダでサンタクロースは
悪い子を袋に入れてさらっていってしまう
としつけのために言われていたこともあります。
しかし現在のサンタクロースは元聖ニコラウス。
子どもたちの守護聖人だった人はそんなことをしない
という考えに変わってきました。
時代によって正しい、正しくないという価値観は
変わっていくものなのです。
その中で変わらないもの、
それが希望なのではないでしょうか。
人がずっと持ち続けても希望は変化することがない、
それは作者の言う通り『魔法』のようです。